添付マニュアル

妹から種菌を譲り受けた時、由来と培養方法が書かれたマニュアルをもらいました。どうやら種菌とセットで広まっているものとみられ、ネット上にもこれとほぼ同文のマニュアルがいくつも見つかりました。かなり大雑把なマニュアルですので、カスピ海ヨーグルトがどういうものなのか、これではさっぱり分からないだろうと思います。後ほど説明が不足している部分を、一つひとつ補足していきたいと思いますが、まずは、マニュアルの原文からご覧ください。
文中、《 》で括られている部分は、私が付け加えたもので、原文にはありません。また、文字が茶色になっているところは、補足説明へダイレクトに移動するためのリンクになっています。よろしければご利用下さい。

このヨーグルトは京都大学の家森教授(当時島根医大教授 病理学)が、カスピ海沿岸の長寿村を調査された際、同地から持ち帰られたものです。
それを京都大学 小西教授(専攻 解剖学)が譲り受け、更に小西教授から甲田氏の手に移ったもので、すでに3カ年を経過しておりますので何代も経てきているものです。

特 徴

作り方

  1. 紙パックの牛乳に種を入れる、1,000mL+タネ(大さじ3杯 30g 程度をパックごと触れないで入れる)《タネを牛乳に移す際、サジ等の器具は使わずに、タネの入ったパックから直接牛乳に注ぎ込めということ。タネに直接触れない分、衛生的だからかな》
  2. ふたを手で閉じて上下左右に3度くらい振る。
  3. 紙パックの上を開いてティッシュをかぶせ、輪ゴムで閉じる。
  4. 温かいところに置く

タネの量と温度によりますが、12〜16時間で素敵なヨーグルトが出来ます。
出来上がったら次のタネを新しい牛乳パックに植えます。保管は冷蔵庫で10度位になると休眠し始めます。

気をつけること

  1. 直射日光と乾燥(日の当たるベランダやこたつの上など)は嫌います。
  2. 長期かまってやれない時は、出来上がったものを容器ごと新聞紙等でくるんで冷蔵庫で1ヶ月は大丈夫です。
  3. 友達は広めておくこと。ブリーダーになる。

いただき方はそのままで十分美味ですが、蜂蜜やジャムを入れて召し上がったり、カレーやシチュー・ケーキに入れるのもお勧めです。

この立派なヨーグルトをたくさん食べると、悪い菌をどんどん追い出し、免疫機能を強くし、心を安定させ健康になります。(宿便を発酵させる)

如何でしょう。未知のヨーグルトのマニュアルにしては、些か簡単過ぎると思いませんか。たったこれだけの説明で日本中に広まったのかと思うと、ちょっと恐ろしい気がします。

では、そろそろ補足説明と参りましょう。強烈に長文ですのでお覚悟召されい。ダハハハハ(TM)




マニュアルの補足

―京都大学の家森教授

実在する人物です。以下に簡単なプロフィールを紹介しておきます。
家森幸男(やもり・ゆきお)
京都大学名誉教授・医学博士
1937年京都府生まれ。1967年京都大学医学研究科病理系専攻博士課程修了。島根医科大学・京都大学大学院教授を経て、2001年から京都大学名誉教授。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。WHO循環器疾患予防国際共同研究センター長。リヨン大学名誉博士。
脳卒中ラットの開発者として世界的に有名。老化に関する研究では、15年以上に亘って世界25ヶ国60地域へ調査に赴いている。
著書に「死ぬまで元気に食べ方革命(海竜社)」「長寿の秘訣は食にあり(マキノ出版)」「長寿の食卓(PHP研究所)」「長寿食 世界探検記(講談社)」などがある。
http://www.adm.kyoto-u.ac.jp/jinkan/indiv/24yamori_y.html

―カスピ海沿岸の長寿村

グルジアの位置 正確には、カスピ海沿岸ではなく「黒海沿岸」の「グルジア共和国(人口約550万人の小さな国)のオセチア地域」だそうです(週刊朝日2002/5/3・10合併号ほか)。
この辺りは「コーカサス地方(カスピ海と黒海の間の地域を指し、グルジア、アゼルバイジャン、アルメニアの3国がそれにあたる)」と呼ばれ、世界三大長寿地域の一つとして有名なところです(ちなみに、長寿世界一は我が日本。勿論、教授は日本人の長寿についても研究されています)。1986年、世界各地を巡って長寿食の研究していた家森教授が同地を訪れた際、100歳を超える老人たちが、皆、ピンピンしているのを目の当たりにして、彼らが毎日どんぶり1杯は食べているという自家製ヨーグルトに、長寿のカギが隠されているのではないかと考え、成分分析のためサンプルとして持ち帰ったのが始まりのようです。
以来、口コミで日本中に広まっていったカスピ海ヨーグルトですが、もともとヨーグルトを広める意志などなかった教授にとって、少々過熱気味のこのブームには若干の戸惑いがあるのでしょう。前出の週刊朝日で「主婦の間で口コミで納得して分け合っているのはいいとしても、商売にするのは絶対にダメ。 オークションに出品するなんて、いかんですわ」とコメントしています。また、今日伝わっているものが、自分が持ち帰った種菌が元かどうか(直系かどうか)判らないことや、入荷ルートが複数存在する可能性についても指摘されています。

―京都大学 小西教授

実在の人物かどうか、確認出来ませんでした。
京都大学に小西姓の教授はおられるようですが、解剖学ではないので、おそらく別人かと思われます。

―甲田氏

甲田氏についても、何も分かりませんでした。
某巨大掲示板のカスピ海ヨーグルトスレッドで、一度話題になりましたが(02/05/01あたり)、結局、何の情報も集まらなかったようです。
ルートについても何ら確認できていません。もはや調べる術はないでしょう。
家森→小西→大塚製薬→某ネットオークション出品者、というとんでもない情報もありますが、これについては、大塚製薬広報部がその関与をはっきりと否定しています(週刊朝日2002/5/3・10合併号)。尤も、大塚製薬が本当のことを言っているかどうかは分かりませんけどね。

―3カ年を経過

マニュアルの出所が特定できなかったため、いつの時点から3年なのかは不明です。
家森教授が日本に持ち込んだのは1986年ですから、もし当初からあったものだとすれば、このくだりは全く意味がありません。最近書かれたものだとすれば、今度は「教授直系」かどうかが怪しくなってきます。いずれにしても、菌の正統性や強さの証明になるようなものではないということです。

―市販のものに比べてこの菌は強力

ルイ・パスツール*医学研究センター有用微生物研究室の赤谷薫室長が、雑誌(月刊誌『健康』2002年7月号)のQ&Aで「カスピ海ヨーグルトに寿命はありますか?」という問いに対し、「永遠にわたって作り続けることができます」と答えていますが、具体的にどういう理由で強いのかは分かりません。
まあ、実際に多くの方が何年も更新し続けているようですので、普通のヨーグルトよりも丈夫ではないでしょうかね。天変地異が起きれば別ですが、ヘマさえしなければ、何年も美味しいヨーグルトが食べられるでしょう。
*ルイ・パスツール:狂犬病の予防注射や防腐法の考案など、微生物の研究に生涯をささげたフランスの科学者。1888年11月14日、初代所長に就任。最近の成果としては、エイズウイルスを分離・発見した。
http://www.pasteur.fr/externe

―酸味少なく

サンプルの培養方法や測定環境等によって数値は違ってきますが、概ねカスピ海ヨーグルトのpH値(7が中性)は4前後です。
比較的高い数値(酸性度が低い)と言えますね。

―粘り気が強く

一般に市販されているヨーグルトとカスピ海ヨーグルトの菌種の違いを表にしてみました。
まずはこちらをご覧ください。

普通のヨーグルト カスピ海ヨーグルト
ブルガリア菌
ビフィズス菌
サーモフィラス菌
アシドフィラス菌 他
クレモリス菌
リューコノストック菌
グルコノバクター桿菌 他

ルイ・パスツール医学研究センター岸田綱太郎理事長、同赤谷薫氏の話によると(週刊朝日2002/5/3・10合併号、月刊誌『健康』2002年7月〜9月号ほか)、最初に検査したカスピ海ヨーグルトには、表にある3種類の菌(2つの乳酸菌と、1つの乳酸菌ではない菌)が含まれていたそうです。この中で最も多く含まれているのが(1gあたり10億個以上)、1番目の「クレモリス菌(学名ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス)」という乳酸球菌です。この菌は、乳酸発酵を始めると多糖体の「粘性物質」を作って菌の周囲に放出する特徴があり、この粘性物質がカスピ海ヨーグルトに「とろろ芋」のような独特の食感を与えています。
2番目の「リューコノストック菌」という乳酸球菌は、乳糖(ラクトース)を分解する能力が弱く、含まれる量も少ないのですが、ヨーグルトの風味に影響を与えているようです。
3番目の「グルコノバクター桿(かん)菌」は乳酸菌ではありませんが、乳酸菌の増殖や粘性物質の生産を助ける働きをするそうです。

その後の調査で、「ラクトバシラス乳酸桿菌」や「酵母(酵母の種類は様々)」が検出されたヨーグルトや、反対にグルコノバクター桿菌やリューコノストック乳酸球菌を含まないヨーグルトもあることが分かってきました。
纏めますと、現在出回っているカスピ海ヨーグルトは、その主成分として必ずクレモリス乳酸球菌を含み、その他、リューコノストック乳酸球菌、グルコノバクター桿菌、ラクトバシラス乳酸桿菌、酵母のいずれかが、何種類ずつか組み合わさって出来ているということです。


―面倒な消毒作用《作業》は必要ない

過信すると非常に危険です。
乳酸菌は乳糖を分解して乳酸を作り、この酸が腐敗菌等の雑菌の繁殖を抑えたり、死滅させたりします*。これが乳酸菌の殺菌メカニズムです。カスピ海ヨーグルトの殺菌メカニズムも普通のヨーグルトと同じですが、普通のヨーグルトが摂氏40前度で最も発酵するのに対し、カスピ海ヨーグルトはそれより低い、摂氏20〜30度で最も発酵するため、より早い段階から腐敗菌等の繁殖を受け付けにくくすると言えると思います。また、クレモリス菌の発酵で粘性が上がって、余分な対流が収まった状態というのは、雑菌が侵入しずらいのだそうです。おそらく「消毒の必要なし」と言っている根拠は、このへんにあるのではないでしょうか。
確かに、室温で速やかに増えて酸性になるカスピ海ヨーグルトは、普通のヨーグルトよりも扱いやすいと思いますが、前述した通り、「pH値は普通のヨーグルトより寧ろ高い(殺菌力が弱い)」くらいですので、決して油断はできません。わずかでもおかしいと思ったら、即座に食べることを止めるべきです。
少なくとも、作る前には手を洗い(当たり前)、使用する器具は全て熱湯消毒し、適温で「しっかり発酵」させ、発酵が済んだら密閉して速やかに冷蔵庫に入れる、ぐらいのことはするべきでしょうね。前出の岸田氏も、「(カスピ海ヨーグルトには)疾病菌をやっつける強い抗菌性が存在する兆候はみられなかった。だから過信は禁物です。清潔な操作と低温での保管を心がける必要があります」と注意を促しています(週刊朝日2002/5/3・10合併号)。
*ある企業(カスピ海ヨーグルトと同じコーカサス地方の発酵食品「ケフィール(ヨーグルトきのこ)」を製造販売している会社)が行ったカスピ海ヨーグルトの殺菌力調査では、かなり良好な結果が出ています。カスピ海ヨーグルトに一般大腸菌群を混入して(人為的に大腸菌群陽性にして)20時間しっかり発酵させたものを、第三者の食品衛生法に基づく指定検査機関に持ち込み、残留大腸菌を調べたものです。結果は、陰性(大腸菌群は一個も発見されなかった)。つまり、乳酸発酵によって大腸菌が完全に死滅したということです。
ただしこれは、徹底した衛生管理と発酵に最適な環境を整えることができる、発酵の専門家が行った調査ですので、一般家庭で培養したカスピ海ヨーグルトにも、これと同等の殺菌力があるということではありません。ご注意ください。

―紙パックの上を開いてティッシュをかぶせ

これは「密閉するな」と言っているわけですが、その理由は、グルコノバクター桿菌や酵母が「好気性」の菌であるため、酸素がない状態では増殖できないからです(ちなみに、乳酸菌は「嫌気性」のため酸素の必要はありません)。
勘のいい方はお気づきかと思いますが、目的はあくまでも「酸素の確保」にあるわけですから、発酵させる容器に好気性菌が活動できるだけの酸素が残っていれば、別に完全密閉しても構わないわけです。より衛生的に発酵させるには、蓋のある大きめの容器に、牛乳と種菌を半分ほど入れて密閉する方が良いかも知れません。
発酵容器に関しては、マニュアル通りに牛乳パックをそのまま使っても作ることができます。牛乳は「摂氏130度2秒」前後で殺菌処理してありますので、「封を開けてすぐに種菌を入れる」のであれば大丈夫だと思います。しかし、開封して時間が経っているものは、雑菌で汚染されている可能性がありますので、たとえ冷蔵庫で保存してあったものでも、絶対に使わないでください。

―温かいところに置く

カスピ海ヨーグルトは摂氏20〜30度で最も発酵しますから、そのぐらいの温度になる場所が良いですね。この菌は高温が苦手なようで、特に夏場の暑い時期は、酸が強くなったり、分離したりと、上手くいかないことが多くなります。室温が摂氏37度を超えてしまうような時は、冷蔵庫にしまった方が良いでしょう。冬場は室温が低いので、出来上がるまでに時間がかかりますが、種菌の量を多めにする等の工夫で早めることはできます。

―友達は広めておくこと

これは、種菌にもしものことがあった時のための「バックアップ」ということでしょうかね。他人をアテにするのはあまり感心できませんが、納得ずくで渡すならそれもアリかも知れません。
いずれにしても、自家培養したものを他人に渡すわけですから、衛生管理には十分気を付けてください。

―蜂蜜やジャムを入れて召し上がったり

家森教授は、毎朝200mLのヨーグルトに、きな粉とゴマをかけて食べておられるそうです(月刊誌『健康』2002年8月号)。きな粉には、脳卒中や高コレステロール、骨粗鬆症、前立腺ガン、乳ガンなどに対する予防効果があるんだとか。
ちなみに我が家は、「蜂蜜+レモン」や「練乳+レモン」で食べることが多いです。ご参考まで。

―悪い菌をどんどん追い出し

一般に乳酸菌には、腸内菌叢(そう)のバランスを良好に保つ効果(優勢菌群=善玉菌を増やし、劣勢菌群=悪玉菌を減らす)、腸管運動を促進して便通を良くする効果、発がん物質などの有害物質を吸着して排出する効果、免疫器官を刺激して体の抵抗力を高める効果、コレステロールの吸収や合成を抑えて血中コレステロールを下げる効果などの、さまざまな健康保健効果があると言われていますが、カスピ海ヨーグルトが普通のヨーグルトに比べて特別優れているかどうかは、まだはっきりとは分かっていません。ルイ・パスツール医学研究センターの岸田氏によると、乳酸菌の働き自体は普通のものとそれほど変わらないのだそうです。
フィンランドにカスピ海ヨーグルトとよく似た「ヴィリ」という発酵乳があるのですが、ヴィリのクレモリス菌が作る粘性物質には、抗腫瘍作用や免疫力を活性化する作用があることが、マウス実験によって明らかにされています。同センターの赤谷氏は、以前、菌の名前(種類)は同じでも、生育する場所によって性質が異なる場合があるため、カスピ海ヨーグルトにもヴィリと同じ効果があるとは一概に言えない、というスタンスをとっていましたが、最近の同氏の見解を見ると(月刊誌『健康』2002年9月号)、「ヴィリの粘性物質とカスピ海ヨーグルトの粘性物質は基本的には同じ物質のようです」に変わってきていますので、いくらかは期待を持って良いのではないかと思います。今後の更なる調査が待たれるところですね。
一つ、家森教授が免疫の専門家(誰であるかは不明)に依頼した調査で、カスピ海ヨーグルトを食べると「インターフェロン*」が増えることは確認されています(週刊朝日2002/5/3・10合併号)。
*インターフェロン:人間が元々持っている蛋白性活性物質。具体的な機能としては、ウイルスの増殖抑制、腫瘍細胞の増殖抑制、免疫反応の増強作用などが挙げられる。

―心を安定させ

ガハハハハ(TM)。これはどういう意味なんでしょう。そりゃぁ、体が健康になれば心も健康になるでしょうけど、それはカスピ海ヨーグルトじゃなくてもいい話であって…。
とにかく、心の安定に直接働きかける何かがあるかどうかは全く分かりませんでした。ひょっとしたら、「腸内」の誤字かも知れませんね。


とまぁ、かなり長くなってしましたが、これでマニュアルの足りない部分は、ある程度補えたかと思います。
まだまだ分からないことが多いカスピ海ヨーグルトですが、正しく(安全に)育てて、毎日食べ続ければ、普通のヨーグルト+αの健康メリットはありそうですよ。


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2002.8.1 Clark Mint